『ヒトハコ』作業日誌(1)

『ヒトハコ』作業日誌

 南陀楼綾繁

 

第1回 構想だけは前からあった

 

2015年

5月某日 南陀楼Twitterで以下を連投する(ひとつながりの文章にまとめた)。

 

 

 

南陀楼から真面目な提案です。一箱古本市がここまで各地に広がり、主催者や店主さん、助っ人さんも含めて、かなりの人数と地域的な広がりになりました。お互いの交流も盛んになっています。この辺で、それぞれの動きを伝えつつ、読み物としても面白い雑誌を発行しませんか? 

 

 じつは5年以上前から不忍ブックストリート内で提案してきたのですが、労力を考え実現に向けて踏み出せませんでした。しかしこの1、2年、とくに東北の店主さん同士の交流を見ていると、できるという気がしています。商業誌は無理ですが、マイナスの出ない発行形態は可能かと。

 

一箱古本市を主宰する各地のブックイベント団体のスタッフと助っ人さん、一箱古本市の店主さん、一箱古本市が好きで通っているお客さんらが書き、読む雑誌をつくれば、いまの「本をめぐる状況」が見えるメディアになるのではと思うのです。

 

 各地の30団体が賛同してくれ、各30~50を買い取って販売してくれれば、1500部程度発行して製作費をトントンに持って行くことは可能ではないでしょうか? もちろん、各地の古書店やリトルプレスを扱うお店にも協力を呼びかけます。

 

 記事のテーマや書き手にはまったく困らないと思うのですが、問題は編集スタッフですね。私は製作指揮(エラソウにいえばプロデューサー)となり、編集、デザイン、流通などの実務を担当する編集部を編成したいです。経験不問で、地方在住可。

 

 編集スタッフのギャラは出せないと思います。メリットと云えば、いろんな人とつながりをつくれる機会がある(編集者の特権です)ことと、自分のやりたいことを実現する場がかなりの確率で実現できること、ですかね。もちろん、他の人のやりたいこともサポートした上の話です。

 

 この件、以前から考えていたのですが、私自身の生活が不安定なこともあって、踏み出すのを躊躇していました。しかし、私の感じでは、いまはじめないと、来年以降は動き出せないなと思っています。ご賛同くださるブックイベント団体や店主さんを募集します。

 

 ブックイベント主催団体からすれば、あくまでも発行タイミングに合えばの話ですが、イベント開催チラシを雑誌送付時に同封して、広い範囲に配布することができます。これは、けっこうメリットかも。

 

 とりあえず、勢いでツイートしているので、まだあいまいですが、興味のある方は私までメールください。順次お返事します。編集、ライター、デザイナー、写真家、流通実務、その他の助っ人さんを募集します。まずはここまで。

 

 これに対して、富山在住の一箱古本市店主の古本よあけさんがいち早く反応し、togetter一箱古本市雑誌のご提案」(http://togetter.com/li/823761)をまとめてくれる。

 しかし、一部の店主さんからメールなどで反応はあったものの、思ったほど多くはなく、また、その時点ではどういう風に制作チームをつくっていけばいいか見えないままだった。

 

 ただ、5月末の「ブックカーニバル in カマクラ」を見にいった際、出店していたちのり文庫さんに「一緒に雑誌をつくってみませんか?」と誘い、興味があると云ってもらえたのは大きな手ごたえだった。

 

12月某日 雑誌をつくるとブチあげたはいいが、自分の仕事もろくに進まないままに夏が過ぎる。秋に富山に遊びに行き、古本よあけさんの自宅に泊めてもらう。その際、興味のある人が集まって話してみようということになり、私のブログで、「『一箱古本市マガジン』(仮称) 第1回編集会議のお知らせ」を呼びかける。

 

「まだまだ、構想の段階ですが、賛同してくださる方に一度集まっていただき、顔合わせとアイデア出しの場を持ちたいと思います。地方在住の方には、スカイプ・ハングアウトでの参加もできるようにしたいと考えています。参加の資格は問いません。一箱古本市に関する雑誌をつくってみたい、と思う方は、どなたでも歓迎します」という呼びかけに賛同して、千駄木交流館に集まってくれたのは17人。新潟の亀貝太治さんもスカイプで参加してくれた。

 

 いま、議事録を読み返してみると、参加してくれた人たちは「こんな雑誌がほしい」「こういう記事が読みたい」という意見を出していて、そのいくつかは『ヒトハコ』創刊号で実現している。また、出席者の約半分がなんらかのかたちで創刊号に関わってくれた。その意味では、とても実りある集まりだった。

 

 しかしその一方で、ではここにいる人たちがそのまま、その雑誌の編集者なり書き手なりになってくれそうかというと、それはちょっと難しいかなと感じた。「読者」の立場での貴重な意見として参考にしつつ、「つくり手」は改めて、別のしかたで見つけなければならないだろうなと思った。

 

 参加者にはメーリングリストに加入してもらい、会議の感想や雑誌に入れたいプランをここに流してもらうようお願いした。しかし、MLの性質上、一人の発言が議論として展開していく感じにはならず、私自身がMLをうまく盛り上げていくことができなかったこともあり、自然消滅してしまった。

 

 私が連載している雑誌『雲遊天下』を出しているビレッジプレス五十嵐洋之さんからは「ウチが発売元になってもいいですよ」と云ってもらっていた。また、こういうテーマの雑誌を出すなら、来年5月の不忍ブックストリート一箱古本市で初売りするのがベストだと判っていた。しかし、そのために必要なチームも、それ以前にこの雑誌についての私なりの「文法」のようなものが見いだせず、どんどん時間が過ぎていった。

(続く)